2015年6月4日木曜日

中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)がなぜ世界に受け入れられたか?

日本でもAIIBに加盟するか否かを巡って大きな議論が起こった。結果的にはBRICS諸国やアジアの主要国のみならず、アメリカと日本を除く西側諸国も多く参加しての発足となった。
  先進国の開発政策を激しく批難してきた左派シンクタンクであるフォーカス・オン・グローバル・サウスの国際政治学者で、前フィリピン国会議員でもあるウォールデン・ベローの議論を紹介する。
 ベローは、世界銀行とIMFが先進国の利益と古典的な緊縮政策を支持する経済学者に支配されており、第三世界諸国が求めている改革がまったく実施されてこなかった、というところに本来の原因を求めている。
 世界銀行はアメリカのための機関と考えられており、日本が支配するアジア開発銀行も、アジア諸国から見ると実質的にアメリカの政策に従属的である、とみなされている、とう指摘である。
 両機関においてクォータの調整などの改革は行われているが、これらは中国を筆頭とする第三世界諸国を満足させるものではなかった、というわけである。
 ここでは触れられていないが、故ウゴ・チャベス前ベネズエラ大統領らが主導した「南の銀行」(Banco del sur)も同様の問題意識のもと、設置された。
  AIIBが開発を進める際に、環境や貧困、人権の問題をどう扱うかは現在のところ未知であるが、AIIBへの参加とは別に、民主制や透明性において、世銀、IMF、および日本が主導権を握るアジア開発銀行の改革をどう進めていけるか、ということが問われているのである。


 中国は世界銀行の代替案を提案し、アメリカ合衆国の同盟諸国がそれに参加する理由英語原文

「こんな友だちがいるのに、なぜ敵が必要なのか?」
 ワシントンの政策立案者たちは、ロンドン、パリ、ローマやベルリンにいる彼らの同盟者たちによる、北京によって提案された新しい開発銀行計画に参加するという決定を聞いて、こう呟いたであろう。
 ワシントンの怒りは、太平洋における二つの主要な同盟国、オーストラリアと韓国もこの時流に乗ると聞いて頂点に達したと思われる。実際、4月中旬には60近い国々がアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創立メンバーへの、北京の招待を受けることを表明した。
 設立時の資本金目標額1000億ドルのうち50億ドルを中国が出資するとされた。
 ワシントンのインサイダーはAIIBが、開発計画の資金源としてアメリカが支配する世界銀行のライバルになるのではないかと恐れている。おそらく、彼らは正しいであろう。
 世界銀行総裁ジム・ヨン・キム氏の、世界銀行のイメージを向上させようという努力にも関わらず、同組織についての周知の印象は「ワシントンの利益のために活動する」というものである。日本が支配するアジア開発銀行についても、東京の外交政策が総じてワシントンの指示に従っているのと同様の関係を世界銀行の間に見出せる、と見られている。
 結果として、代替組織への渇望が世界中に広がっていた。そして、北京にとって代替組織を提案することは極めて喜ばしいことだった。

◯部外者でいるコスト

中国のAIIBに投資するという作戦は、「ブレトン・ウッズの双子」と呼ばれる世界銀行とIMFへの多国間での代替案を構築するという意味では、この一年のうちに行われた三番目のイニシアティヴである。
 昨年7月、フォルタレザ(ブラジル)で行われたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)サミットで、中国は世界銀行のライバルとして1000億ドルを計画された「新開発銀行」の設置の、中心的役割を果たした。同じ会合で、中国とBRICS諸国は、IMFに対する事実上の代替案として、the Contingency Reserve Arrangement (緊急時外貨準備金基金)を設置した。これは、BRICSメンバーだけではなく、長期的には国際収支上の危機に陥っている他の開発途上国の支援も行うものになる。
 ワシントンの伝統的な同盟国は、アメリカのAIIBに関する不満は、この新しい企てに参加しない不都合と比較すれば重要ではないと考えた。
 例えば、AIIB非参加国の建設会社や製造会社が、数千億に上るであろう、AIIBが投資するインフラ建設計画の入札で不利になる可能性もありうるわけである。イギリス、フランス、日本のような同盟国経済にとって、グローバルな経済停滞期においてこういった果実の多い契約から外されることは、想定するのも恐ろしいことである。
 オーストラリア財務長官のジョー・ホッケーは率直に、彼の国の中国との商売上のつながりが、ワシントンとの伝統的な友情に勝ったことを率直に語っている。「アメリカ合衆国はこれが私たちの地域で活動しようとしている銀行であると理解しています」と、彼は述べた。「それは、私たちの地域で業者が仕事を請け負います。私たちは、オーストラリアの業者がそれに加わることを望んでいます。私たちは、この銀行によってオーストラリア人のための仕事ができることを望んでいるのです」

◯失望した顧客たち

多くのアナリストは、ワシントンとその同盟者たちにとって、新しい多国間機関の創設に向けた中国の攻勢が日々強まっているのは自業自得だと考えている。
 グローバル金融危機のあと、中国がIMFと世界銀行における投票権の拡大を求めたことに対して、米国議会がこれを否決したのが、中国がこれらの機関に失望する原因だったと分析するものもいる。
 アメリカと15の先進国がIMFの投票権の52%を支配しており、残りの168ヵ国に残されているのは48%ということになる。今や世界最大の経済になった中国が持っている投票権は、3.8%である。これは、イギリス、フランス、ドイツ、日本、ブラジル、韓国およびメキシコのそれぞれが享受している小さいばかりか、ベルギーという小国より小さいのである。
 BRICS諸国や他の開発途上国からの猛烈な抗議にも関わらず、それらの国々に割り当てられた投票権は、この20年でわずか6%しか上昇していない。世界銀行に関しても、比率や傾向は概ね同様である。
 アメリカ合衆国とヨーロッパの国々は、世界銀行の総裁はアメリカ合衆国籍のものが占め、IMF専務理事はヨーロッパから選出されるという、彼らの「封建的」特権とでもいえる状況を、強硬に堅持してきた。
 両方の組織で、17%の投票権を持つアメリカ合衆国は、鍵となる政策決定に関する拒否権も行使しすることができる。
 アメリカのこうした態度を真似たいと思っているわけではない、ということを示すために、北京はAIIBで中国が最大の出資比率を持つにも関わらず、政策決定に関する拒否権を要求しないと声明を発表した。

◯政策の失敗

ブレトンウッズ銀行の実際の振る舞いは、この二つの銀行に対するグローバルな失望に燃料を注ぐ役割という意味では、投票権比率や拒否権、その他の封建的な特権に勝るとは言えなくても、決して劣らないものであった。
 IMFは、資本勘定自由化を促進したことによってアジア金融危機の引き金を引き、金融危機の被害を受けた国々に過酷な緊縮政策を押し付けることによって状況を悪化させたという悪評から逃れ得たことはない。世界銀行もIMFと共同で、1980年代から90年代にかけて、痛みが大きく効果に乏しい構造調整プログラムを90に登る開発途上国に押し付けたという汚名をすすげてはいない。これらのプログラムは、成長をもたらし貧困を削減するという目標をほとんど達成しなかった。
 数年前、IMFは経済成長と開発に関して、ネオリベラルな側面を低減し、よりケインズ主義的な手法を採用すると声明が出された。しかし、これはIMFも欧州中央銀行と欧州委員会とともにメンバーであるとみなされる「トロイカ」によって裏切られることになった。つまり、彼らは2008年のグローバル金融危機のあとに、ギリシャ。ポルトガル、アイルランドといった国々に厳しい緊縮政策を押し付けたのである。
 IMF専務理事であるクリスティーヌ・ラガルドによる、ギリシャ経済に緊縮政策がかくも深いダメージを与えると予測していなかったという告白は、さらなる信用の失墜を招くであろう。
 一方で、世界銀行は前前総裁ロバート・ゼーリックの元で、「気候銀行」としての再編を図ったが、発展途上国から気候問題への適応策にのみ資金を集中させているという批難を受けた。バラック・オバマ大統領に指名を受けた韓国系アメリカ人であるジム・ヨン・キム総裁体制では、先進国の温室効果ガス排出削減の提唱者、またエボラ・ウィルスのような致命的な病気の封じ込めで中心的な役割を果たす機関、というイメージを打ち出そうとしている。しかし、保守的な経済と、アメリカの経済利益は依然として世銀の政策とプロジェクトの実施を支配している。
 自国が支配してきた二つの機関と共に、開発を促進し、グローバル経済を管理するなかでの様々な陰鬱な記録を持っているアメリカ合衆国は、ある時点で、世界はどこかそれらの機関が自由にできない場所を探し始めるだろうと予測すべきであった。そして、北京が今やその空白に踏み出したことは明らかである。


ウォールデン・ベロー
 フォーカスオンザグローバルサウス」の元代表で、WTO反対やG8に対する行動などで活躍。アクバヤン党(市民行動党、アキノ政権の与党)推薦の下院議員だったが、3月初め、アメリカが主導し凄惨な結果をもたらしたフィリピン南部のムスリム・コミュニティへの襲撃についてのアキノ大統領やアクバヤン党の対応に抗議して辞任した。