日本の食卓の未来を大きく揺るがす可能性があるTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に日本がいよいよ来週から参加することになったよ。TPP交渉は、これまでの国際経済交渉とは大きく異なり、日本の市民の暮らしの中でも大切な医療や公共サービスや社会的制度にも大きく影響する内容となってる。その中でも農業と食卓に与える影響は大きく、交渉の結果如何では、日本の農業は壊滅的な影響を受ける可能性があるんだ。
日本の食卓の未来を考えるためにTPPと農業の現状について話したいと思いこのサイトを立ち上げたよ。今回はコメ編。お茶碗一杯から世界のコメ問題とTPP交渉の現状を考えたいと思う。ちょっと長いけど読んでやってくださいな。
お茶碗一杯のご飯からTPPへの旅(前編)
TPP交渉や国際経済交渉は市民にはよくわからない用語や内容となってる。ここではお茶碗一杯のごはんから噛み砕いて考えたいと思う。クイズから入ろうか。お茶碗一杯のごはんに何粒入ってると思う?ご飯は炊くと重さが2.3倍ぐらいになるよ。最初なので三択で行こうか。
1.1500粒、2.2000粒、3.3000粒
答えは約3200粒。少し簡単だったかな?じゃあこの3200粒には稲の株が何株必要だと思う?イネ1株には25本ぐらいの穂がついている。一つの穂についているモミは70粒ぐらいだ。つまり2株ぐらい必要ということだ。これも簡単だったかな?じゃあ日本の田んぼの数え方の基本である一反=10a=0.1haには何株植えるかな?ちょっと難しい?じゃあ補足しよう。一反は三百坪。一坪はだいたい畳二枚分の広さ。昔は田んぼの畦を歩きながら農家は一反歩の広さを覚えたと言うよ。答えは1万8千株、つまり9000杯のごはんができるということだ。一反で取れるお米はだいたい500~600キロ。日本の年間平均のコメの消費量は60キロ。つまり10人分のお米が取れるというわけだ。日本の一人当たりコメ消費量は減り続けていて1960年代は年間130キロと今の倍以上コメを食べていたんだが、現在では年間900杯ぐらいのごはんを食べているのが現状だよ。
アジアの稲作が持つ意味
数字ばかり並べていると思われそうだがこの計算は実は大切なんだ。というのも日本の田んぼの意味を考える基本となるからだよ。どういうことかというと、7月から日本が参加するTPP交渉に入ると、安いコメが海外から入ってきて消費者は家計が助かるようになるとメディアでは繰り返し宣伝されていて、一方もしコメの関税が完全になくなると日本のコメの9割はなくなると言われているんだ。
TPP交渉参加国の中でもコメの輸出国の米国や豪州、とは農家の平均の農地規模がそれぞれ100倍、1500倍の違いがあり競争にならないと言われている。でも農地自体の生産力の違いがあるということも知って欲しいんだよ。どういうことかと言うと、日本に限らずアジアは降水量が豊富で田んぼの生産力が高い。米国の10倍、豪州の100倍の生産力があると言われている。アジアは世界人口の6割を占めるけど農地は世界の3割しかない。それでもモンスーン地帯の気候を生かして水田稲作が発展してきたことでこれだけの人口を養ってきたことができた(コメだけじゃなく雑穀等様々な食文化ももちろんあったけどね。)。それでもコストの差があるのは事実。日本のコメ価格がキロ200円なのに比べて米国60円、中国やベトナムは約50円なのが現状だ。競争にならない現状もあるのはある。
日本のコメ輸入でアジアが飢える
ここで考えて欲しいのは、日本は海外からずっとコメを輸入し続けることができるのかということだよ。まず知って欲しいのは、コメの貿易は世界ではあまり盛んではないということだ。貿易率という難しい言葉があるんだけど、生産量に比べて国際的に取引される割合を指す用語だ。世界の三大穀物はトウモロコシ、小麦、コメなんだけでお中でもコメの貿易率は、トウモロコシ、小麦と比べてとても低いんだ。なぜかというとコメは基本的に各国自給用に回すから国際市場にあまり出ないんだ。コメがないからといって簡単に海外から輸入できない構造があるということを知って欲しいんだ。世界の食料は今後ますます逼迫していきそうな中で、日本もずっと輸入をできるか疑問だしね。実際輸入に頼っていざ輸入できなくなってコメ不足になった国もあるよ。
アジアはまた飢えが存在する地域ということも考えて欲しい。世界人口は70億を超えたが、その内約9億人は毎日の食料に事欠く飢えの状態にあると言われている、その約6割がまたアジアに集中しているんだよ。その中で日本が全量コメを輸入したらどうなるかという試算が出た。日本は世界第11位のコメ生産量を誇る国だ(約840万トン)。その国が全量輸入するとアジアで約2.7億人が新たに飢えるという試算が出たんだ。つまりコメの消費や生産はグローバルに考えるべきで一国の価値観だけで考えてはいけないということなんだよ。すでに日本の穀物輸入は世界の穀物貿易の約1割を占めている現状もあるんだ。特に畜産の飼料や清涼飲料水などに使用されるコーンシロップの原料のトウモロコシは世界一の輸入国になっているんだよ。もしコメまで輸入すると世界の穀物貿易の2割を世界人口の2%の日本が輸入することになるんだ。日本がコメを自給する世界的意味とTPP交渉の矛盾が少し見えてきたかな。まだまだ話し足りないんだけど長くなってきたので続きは後編に回しますね。次回はコメと水そしてコメづくりの現状について触れてみたいと思うよ。 (松平 尚也)