2013年7月5日金曜日

ブラジル・デモ 無料乗車運動からブラジル大統領への手紙

ブラジルで起こっている大規模な抗議活動は、これまで社会運動を担ってきた世代ではない新しい世代の運動として、アラブの春からスペインの怒れる者たち、アメリカのオキュパイ運動などが起こってきているという流れの中に位置づけられます。
 FIFAワールドカップに向けたスタジアム建設等が公共サービスに優先して行われていることや、経済成長以上のインフレによって人々の生活が苦しくなっていることが背景と言われていますが、この運動が昨日突然出来たというわけではなく、運動の中核を担っているのは「無料乗車運動(MPL)」で、2005年に同国ポルト・アレグレで行われた世界社会フォーラムで結成されたとされています。
 ここでは、デモをうけてルセフ大統領から「対話」を呼びかけられた無料乗車運動から、大統領への手紙を紹介します。
 二代、十年続いている左派政権のあいだも、それ以前の政権と変わらず先住民族運動や社会運動の「犯罪化」が続いており、また公共サービスの市営化(民営化)が人々の権利を無視する形で進められていることを告発しています。
 運動自体は乗車賃の無償化を求めるという、ワン・イッシュー型の運動ですが、それを媒介として幅広い運動につなげていこうという運動になっています。


無料乗車運動からブラジル大統領への手紙
[英語版][ポルトガル語原文]

 私たちはこの会合への貴方のご招待に驚かされました。貴方も、この数週間我が国で起こっていることに驚かされているのではないかと推察します。連邦政府の一部として対話をという身振りは、これまで貴方が社会運動に対してとってきた対応と矛盾するものです。6月6日からブラジルの諸都市に広がった蜂起は古い障壁を取り去り、新しい道を作り出したように見えます。

 最初から「無料乗車運動」はこの運動の一部を担ってきました。私たちは自律した、水平的な、非政党型の社会運動であり、この国のストリートに出た全ての抗議者を代表しようという意図をもったことはありません。我々の声は、ストリートで叫ばれた、プラカードに掲げられた、あるいは壁に書き殴られた諸々の声のひとつであるにすぎません。サン・パウロにおいて、私たちは「乗車賃の値上げ撤回」という、明確で具体的な要求を掲げて抗議を行いました。これが以前には不可能に見えたとすれば、私たちはそれが不可能ではないと証明したということであり、この闘争を私たちの以前からの中心的な関心事であった「何が本当の公共交通機関なのか?」という論点に進めたと言うことです。これが私たちがブラジリアに来た理由です。

 交通機関は全ての人々が真にアクセス可能である場合にのみ、公共的であると言えます。これは普遍的権利と理解されるべきです。乗車賃の不公正は、全ての値上げの毎に、さらに多くの人々がそれ以上支払いきれなくなるということによって、より露わにされてきます。値上げの問題は、乗車賃政策の論理の問題であり、この論理が人々のニーズではなく企業家の利益に従属させられていると言うことにあるのです。都市を動き回るために支払うと言うことは、可動性(mobility)を権利ではなく商品として扱うと言うこと意味しています。これは他の諸権利に影響を与えます。学校や病院、公園に行くことができるということは、乗車賃は全ての人が払えるレベルに据え置かれなけれなければいけないと言うことです。交通は、通勤を制限し、都市の住民に対してその都市の他の場所を閉ざすと言うことでもあります。都市を開くために、私たちは公共交通機関の無料化のために闘います。

 これらの理由から、私たちは大統領の、乗車賃無償化と、憲法第六条の社会権のリストに、憲法修正(PEC90/11)でつけ加えられた交通機関の権利についてどうお考えか伺いたいと思います。これは交通機関へのアクセスが完全で制限のない権利であると扱われるべきであると理解されます。つまり、私たちはこの政策が社会の特定のグループにのみ制限的に行われる、例えば学生への乗車賃無償化、といったことを超える権利であると考えています。私たちは全ての人の、公共交通機関の無料化のために闘います。

 道公共交通機関を優先させるとブラジル政府が述べてきたにも係わらず、道路計画と自家用車購入ローン(IPEA, 2011)等を通じた、個人交通機関への投資は、公共交通機関への投資の11倍にも上っています。公的資金は公的な交通機関に対して行われるべきです! 地方政府が公共交通機関を優先する政策をとるための資金援助を連邦政府が行う義務を課す「都市交通に関する国法」16条第5項に対して大統領が拒否権を発動されたのか伺いたいと思います。9条が明らかにしたように、この法律は乗車賃を課すことを基本とした私営管理モデルに優先権を与え、従って利用者ではなく私企業の視点を採用しています。連邦政府は公共交通機関を建設するプロセスをリードする必要があります。CIDE [Contribution for Economic Intervention][1]の市営化、および公共交通機関への完全で排他的な割り当てが、交通機関無償化への長い道のりの、最初のステップを表すでしょう。

 交通企業に歴史的に認められてきた手法である税の免除は、逆の方向へ進むでしょう。税の免除は、公的な資金への権力が失われること、つまり交通マフィアへの透明性も統制もない資金提供に過ぎないということになります。交通に関する人々の要求を満たすためには、意志決定の中心に利用者と交通労働者のニーズを置くような手法の構築が必須です。

 この会合は、大統領にとっては、爆弾、銃弾と牢獄といった状態に至りそうなストリートへの動員によって彼女に強いられたものでしょう。ブラジルの社会運動は鎮圧と犯罪化に日々苦しんできました。現在、2013年までまったく状況は変わっていません。マットグロッソ・ド・スル州で先住民族に対する虐殺があり、先月にはよってテレナの民族指導者の一人が彼らの土地を奪還する運動の過程で国立公共安全軍(Força Nacional de Segurança Pública)に殺されました。数週間前にもホームレス労働者運動(Movimento dos Trabalhadores Sem Teto - MTST)の5人のメンバーがFIFAワールドカップの影響への抗議活動の過程で逮捕されています。

 6月に始まった抗議活動への警察の対応もまったく変わらないものです。催涙ガスは病院や大学にも投げ込まれ、抗議活動家は憲兵に追い立てられ、殴られ続け、場合によっては撃たれています。何百人もの人々が理由もなく警察に逮捕され、一人の女性は催涙ガスによる窒息で亡くなりました。我々が目撃した真の暴力は、その全ての領域において、国家からもたらされたものです。

 国連に支持されている警察の非武装化、多くの国では禁止され、また国際機関によって非難されているような致命的な武器を規制する国法が緊急に必要です。国立公共安全軍の展開は、司法省による、連邦政府が社会運動を警察の問題だと扱うという宣言のための示威行動を意味しています。連邦警察とブラジル諜報局(ABIN)による運動の監視という報道も同じ方向性、つまり人々の闘争の犯罪化という方針を示しています。私たちは、この会合を連邦政府の態度変更が他の社会闘争、例えば今も地主と政府から数々の攻撃をうけているグアラニ・カイオワやムンドゥルクといった先住民の人々、追い立てをうけているコミュニティ、家や土地無しの人々、貧困地域で子どもが警察に殺された母親達の運動等にも拡張される証しにできることを望んでいます。同じアプローチは、他の都市、サンホセ・ドス・カンポス、フロリアノポリス、レシフェ、リオ・デ・ジャネイロ、サルバドール、ゴイアニアなどの多くの都市での、乗車賃の引き上げに抗議し、異なる公共交通モデルのための闘争にも拡大されるべきです。

 対話のためのテーブルに着くよりも、問題は、国中の社会運動が既に掲げている明確な要求を満たすことである。公共交通の値上げに反対し、乗車賃に反対し、私たちはストリートに留まるでしょう。乗車賃無償化を今!

 自動改札なき生活のためのこれらの闘いに全ての力を!